既に開発を進めている5GHz 帯および920MHz 帯以外に、UHF 帯で筐体に実装したいというニーズの高まりから、UHF 帯でもメタマテリアル金属近傍アンテナの小型・薄型化する検討を始めました。
1.メタマテリアルの金属近傍アンテナとは?
一般的にアンテナは、金属が傍にあると電波の性能が悪くなります。 それに対して金属近傍アンテナとは、こうした弱点を克服した「金属がそばにあっても性能は落ちる事のない」アンテナの事を言います。既に世の中には、金属近傍アンテナは複数開発されていますが、当社ではメタマテリアルを使った金属近傍アンテナを目指しています。それは、メタマテリアルを使う事で、従来の限界を超えるアンテナを創造出来る可能性があり、性能改善に大きく寄与すると考えているからです。
メタマテリアルによる金属近傍アンテナには下記の2 種類あります。
①AMC(Artificial Magnetic Conductor)アンテナ
マッシュルーム形状の単位セル(Electromagnetic Band Gap (EBG)構造の単位セル)を複数接続して磁気壁を作り、その上にダイポールアンテナもしくはモノポールアンテナを実装したものを言います。磁気壁とは、磁束線が面に垂直になる壁のことで、電波を同相で反射することから、磁気壁の向こう側に同相のイメージアンテナがあるとみなすことができます。磁気壁はEBG のパッチ面にできます。
図1 EBG構造例
図2 AMCアンテナ例


金属板は電波を逆相で反射するので、近傍アンテナの性能を劣化させますが、AMCアンテナのEBG 構造のパッチ面は電波を同相で反射します。そのため、AMC アンテナを金属板上に設置すると、金属板の影響を打ち消すことができます。
②メタラインアンテナ
メタラインアンテナ(メタマテリアルのラインアンテナ)は右手左手系複合線路の漏れ波領域を利用する漏れ波アンテナであり、磁気壁は使用しません。グランドの上に作る進行波アンテナです。パッチとパッチをつなぐキャパシタンスと、パッチとグランドをつなぎ、インダクタンスを生成するビアで構成される単位セルを複数接続した構造になっています。 例ではキャパ シタンスとインダクタンスをchipで作り、インダクタchip は裏面でグランド接続しています。表面にインダクタchip を置き、chip からビアでグランドに接続する構成もあります。

2.課題と私たちの意気込み
①小型・薄型化への課題
サイズが小さいと損失が増えて効率が低下します。AMC アンテナもメタラインアンテナでも、サイズが小さいと効率が上がらないのが現状です。 例えば、920MHz 帯で筐体内に収まる実用的なサイズまで小さくすると、現状では効率が十分ではありません。これに対して、三省電機では、低損失な材料や構造を駆使して、効率の改善を進めていく計画です。
②その他 : 広帯域、マルチバンドへの対応
小形・薄型化以外では、LTE のような広帯域、マルチバンドへの対応が課題の一つに挙げられます。三省電機では、これまでに、アンテナの最適化により、必要とする広い帯域を確保しつつ、所定のサイズに収めるまで小形化し、その上で所定のアンテナ性能を最大限引き出すことに尽力してまいりました。その経験の上に、新たな挑戦として、メタマテリアルアンテナにおいてどうすれば、必要な広い帯域やマルチバンド帯域を実現できるのか、検討を進めていく計画です。
以上のように、メタマテリアルアンテナが商用で使用されるまでには解決すべき課題がいくつか存在しています。 しかし実現出来た場合の効果は非常に大きく、様々な場面での通信に大きな進歩をもたらすと私たちは考えています。我々は、一つ一つ検討を重ね、製品化に向け推進して参ります。